今からできる生前手続き

高齢者の単独世帯や夫婦のみの世帯が増加しています。高齢化の進展とともに終活への関心も高まっており、家族へ迷惑を掛けないよう気力や判断力があるうちにできることはしておきたいと考える方も多いと思われます。

生前手続きは、自分が生きている間に将来の不測の事態に備えて行う手続きや計画のこと。エンディングノートを活用して、できることから取り組んでみてはいかがでしょうか。

高齢者のいる世帯は?

厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査の概況」によると、2022年6月2日現在、65 歳以上の方がいる世帯は 2747 万 4 千世帯(全世帯の 50.6%)となりました。半数以上の世帯に高齢者がいることが分かります。世帯構造をみてみると、「夫婦のみの世帯」が882 万 1 千世帯(65 歳以上の者のいる世帯の 32.1%)で最も多く、次いで「単独世帯」が 873 万世帯(同 31.8%)です。

「夫婦のみの世帯」であれば遺された配偶者も高齢であることから、様々な手続きを行うのは大変です。「単独世帯」であれば離れて暮らす子どもや兄弟などが手続きを進めることになりますが、亡くなった方の生活状況や個人情報等が分からなければ各種手続きに困難を伴うことでしょう。

エンディングノートの活用を

自分の死後、様々な手続きに関し家族の手を煩わせたくないと多くの方が思っているのではないでしょうか。スムーズに手続きを進めてもらうには、エンディングノートに必要な情報を一元化してまとめておくことが有効です。

エンディングノート作成に必要なものは以下の通りです。

・健康保険証  ・介護保険証  ・診察券  ・おくすり手帳  ・年金証書

・生命保険の保険証券  ・預貯金通帳  ・クレジットカード  ・有価証券

・登記簿謄本  ・その他契約関係の書類  ・近年届いた年賀状  

・友人知人等のアドレス帳  ・毎月引き落とされているものが分かる書類  

・公共料金等の領収書  ・お墓や葬儀関係の書類   など

こうしたものを準備して、エンディングノートに必要な情報をまとめておきましょう。書くのが面倒であれば、コピーをして挟んでおいてもかまいません。なお、これらは一度まとめたら完了ではありません。年に1度、例えば誕生日や年末年始などに情報を更新することが望ましいといえます。

具体的な取り組み例

●お金まわりの把握と整理

気力や判断力があるうちにしておきたいことの1つがお金回りの把握と整理です。預貯金はどこの金融機関にいくらあるのか、通帳や印鑑の保管場所、クレジットカードの枚数、株や投資信託などを購入している金融機関などを把握します。通帳やクレジットカードの数が多ければ、利用頻度の少ないものを解約して整理したり、ネット証券などインターネット上で開設している口座があれば、その情報も分かるようにしておきましょう。

すべての情報をまとめた上で、どの口座にいくらあるのかを定期的に確認することで円満な相続対策を考えことができますし、自身の財産を正確に把握することで老後の不安も軽減できるかもしれません。その後のライフプランにも役立つでしょう。

●遺言書の作成

相続を争族にしないための方法の一つが遺言書です。エンディングノートには法的効力がありませんから、紛争を防止するには遺言書を作成することが重要です。遺言書は、死後に財産分与や遺産の処理に関する指示を残す重要な文書で、公正証書遺言や自筆証書遺言があります。遺言書の作成には厳格な決まりがあるため、遺言書を作成する際は法的な要件を確認してください。

政府広報オンライン「知っておきたい遺言書のこと 無効にならないための書き方、残し方」

近年、自筆証書遺言書保管制度が設けられました。この制度では、自身で作成した遺言書を法務局が保管するので、紛失や消失、改ざんや隠匿のおそれがありません。また、遺言者の死後に法務局が相続人に遺言書の保管を通知してくれます。

法務省「自筆証書遺言書保管制度」

●医療指示の設

終活を始めても、やはり自らの「死」についてはまだ遠いものという意識が強いのではないでしょうか。医療指示は、自分が病気や事故で意識不明になった際の医療処置に関する意向を示すものです。これには「生命維持治療を受けるかどうか」や「臓器提供の意向」などが含まれます。

命の危険が迫ると約70%の方が、自身が望む医療やケアを人に伝えることが難しくなるといわれています。そこで、前もって終末期のケアについて自分自身で考え、家族や信頼する人たちと話し合うことで自らの価値観や考え方を伝えておくことが重要です。

人生介護についてはご存じでしょうか。人生会議とは、アドバンス・ケア・ プランニング(Advance Care Planning)のこと。もしもの時のために自身が望む医療やケアについてあらかじめ考え、家族や信頼する人たちと話し合うことをいいます。

厚生労働省 「人生会議」してみませんか

厚生労働省「令和4年度 人生の最終段階における医療に関する意識調査」によると、人生会議について「知らない」と回答した一般国民は72.1%。「よく知っている」と回答した方は5.9%しかいません。ただし、人生の最終段階における医療・ケアについて考えたことが「ある」と回答した方は51.9%で、人生会議を進めることについて「賛成である」と回答した方も57.3%いることから、人生会議への関心が低いわけではありません。

同調査では、医療やケアについて話し合うきっかけは「家族等の病気」や「自分の病気」という回答が多くなっており、家族や親しい人、自身の病気を契機として終末期のケアが身近に迫ってくる状況がうかがえます。

そのほか、大きな家具や家電、布団などの断捨離も考えてみましょう。また、定額料金での支払い(サブスクリプション)がある場合、速やかに解約しないと支払いが続いてしまう恐れがあるので、利用しているサービスやID・パスワードなどが分かるようにしておくことも大切です。自分の死後の希望や葬儀に関する希望を分かるようにしておくことも忘れずに。これには葬儀の形式や埋葬場所などが含まれます。

これらの生前手続きは、突然の事態に備えるだけでなく、遺族にとっても負担を軽減する助けになります。不明な点は専門家などの助言を受けつつ、個人の状況に合わせてできることから進めていきましょう。

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