セカンドライフを目前に控え、多くの方が直面する大きなテーマの一つが住まいの選択です。持ち家に住み続けるか、売却して賃貸に移るか。経済的な合理性や利便性はもちろん重要ですが、ここでは仏教的な教えや価値観を取り入れ、心の平安と調和を重視した住まいの選び方を考察します。
仏教の視点~無常と執着からの解放
仏教の根本的な教えは、この世のすべてが無常であり変化し続けること、そして苦の原因は物事への執着にあるということです。
家もまた無常であり、永遠に私のものとして存在し続ける物ではありません。持ち家は永遠の安心の象徴のように思われがちですが、老朽化して価値は変動し、いずれ手放す時が来ます。また固定資産税や修繕費、維持管理の責任といった形で、私たちに心の重荷と労力を要求します。この負担は、執着の維持にかかる苦と言えます。
持ち家に対する強いこだわりは、家を手放すことへの恐怖や資産価値への固執という形の執着を生みます。これは心の平安を妨げる原因になりかねません。一方で賃貸は、良くも悪くも仮住まいであり、執着を生みにくい側面があります。住環境の変化に柔軟に対応できる身軽さは、仏教で重視されるこだわりを手放す生き方に通じるものがあります。
所有の責任と自由の対比
持ち家を選ぶことのメリットは、慣れ親しんだ場所やコミュニティ、土地に根付くことによる精神的な安定感や、資産としての活用可能性などです。しかし、デメリットとして、立地や間取りの不満があっても簡単には変えられない固定化された生活が挙げられます。特に高齢になり、介護が必要になったり移動が困難になったりした場合、環境の変化に対応しにくい可能性があります。また、高齢になってからの家のメンテナンスは大きな負担となり続けます。
一方、賃貸を選ぶことのメリットは、環境変化への柔軟性です。心身や金銭的な状況の変化に応じて、必要な時、必要な場所へ身軽に移動できる自由が得られます。修繕や維持管理の責任から解放され、好きな場所での趣味や地域活動、自己の探求といった本当に価値あることに時間を使えます。これは、仏教でいう修行の時間を確保することにも繋がります。しかし、賃貸の場合、高齢になると入居を断られる可能性や、家賃支払いに対する不安が残るという経済的な懸念があります。
心の平安を軸にした選択
どちらを選ぶにしても、これで完全に安心できるという答えはこの世に存在しないことを知るべきです。
持ち家を選ぶ場合、資産や見栄ではなく、生活の道具として、そして地域社会との縁を結ぶ場所として、感謝を持って淡々と管理する姿勢が大切です。賃貸を選ぶ場合、自分の場所がないという不安に執着せず、今いる場所を一時的な道場と捉え、日々の生活に感謝する心を養います。
セカンドライフは、人生の集大成に向かう時期です。物質的な重荷を減らし、心の探求や他者への貢献に力を注げるよう、身の丈にあった身軽な住まいを選ぶことが、仏教的な生き方において最も重要です。
豪華さや永続性ではなく、「少欲知足」(欲少なくして足るを知る)の教えに立ち返り、今、この瞬間を心地よく、静かに過ごすことができる場所を、ご自身のセカンドライフの住まいとして選択してください。持ち家も賃貸も単なる器にすぎません。その中で私たちがどう生き、どんな心を育むかが肝心なのです。
