定年後を考える

定年後の3Kと呼ばれている、「金」「健康」「孤独」。定年間近や、定年を迎えてからどうにかしようと思っても、なかなか難しい問題です。人生100年時代とも生涯現役社会ともいわれるようになりました。ある程度の年齢になったら、定年後についても考えていきましょう。

「金」~賃金から年金へ

公的年金を受給できるのは、原則として、65歳からです

令和3年4月1日に高年齢者雇用安定法の改正法が施行され、定年を70歳に延長するなどの就業確保措置が努力義務化されてはおりますが、現状、一般には65歳になると再雇用が終了します。

再雇用が終わると労働による収入(賃金)がなくなり、公的年金が主な生活資金となります。そこで、定年後を考えるには、65歳以降の収入と支出を把握することが重要です

生命保険文化センター「令和元年度 生活保障に関する調査」によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考える最低日常生活費は、月額で平均22.1万円となっています。ゆとりある老後生活を送るための費用として必要と考える金額は平均14万円となっており、ゆとりある老後のためには、月額で平均36万円程度が必要と考えられています

厚生労働省によると、夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額(令和4年度)は月額219,593円ですから、ゆとりある老後のためには、やはり14万円程度足りないということになります。

夫婦ともに90歳まで生きると仮定した場合、「(90歳 - 65歳) × 14万円 × 12ヶ月 = 4,200万円」が不足すると見込まれます

もちろん個々人のライフスタイルは様々であり、何をもってゆとりある生活というかは人それぞれですが、一度、自身が考える老後の必要生活費を算出してみましょう。もし年金収入で足りなければ、退職金や預貯金でどれくらい用意できるのかを計算したうえで、不安であれば保険の見直しや、65歳以降も働き続けるなど、いくつかの選択肢を考えておく必要があります。

「健康」~一病息災でちょうどよい?

長寿高齢社会です。年齢を重ねるにつれ、健康に対する不安も増大します。現役時代から健康診断をしっかり受診し、病気になりにくい生活習慣を心がけることは大切ですが、加齢による病気を完全に防ぐことは困難です。以前は、「無病息災」が健康を意味しましたが、長寿高齢社会となった今、1つぐらい持病があるほうが健康に気を配り、かえって長生きするという「一病息災」くらいでちょうどよいのかも知れません

ちなみに、厚生労働省によると、日常生活に制限のない期間(健康寿命)は、令和元年時点で、男性が72.68年、女性が75.38年となっています。

厚生労働省「健康寿命の令和元年値について」より
「孤独」~大切な居場所づくり

定年後、会社に行くことがなくなると、会社で培ってきた人間関係がリセットされてしまい、同僚や知人との交流がなくなってしまうといわれます。それまでの人間関係が会社だけに限定されていると、定年と同時に孤独を感じてしまうことになりかねません。

そうならないためには、ある程度の年齢になったら、ボランティアを含め地域での様々な活動に目を向けてみたり、同じ趣味をもつ仲間を探すなど、会社以外での人間関係を構築する努力が必要です。

また、今後は65歳以降も働ける会社が増えるでしょうから、いくつになっても求められるスキルや技術を身につけることも重要でしょう。そうなれば、フリーランスとして活躍することもできるかもしれません。どんな形であれ、社会とのかかわりを絶やさない姿勢が、孤独を避けることに繋がるのではないでしょうか。

もちろん、家族との関係を良好に保つことが重要なのは、いうまでもありません。

会社員であれば、誰もが迎える定年後。避けることはできません。その時になって慌てないように、現役時代から考えておきたいものですね。

退職金と老後設計

新年度を迎えました。3月いっぱいで退職された方もいらっしゃると思いますが、わが国では、退職すると退職金が支給されることが多いです。しかも、退職金は税金が優遇されてますから、かなりまとまったお金が手に入ります。人生100年時代。まだまだ先は長いです。無計画に退職金を使うのではなく、老後の生活設計に結びつけて考えていきましょう。

退職金の性格は?

退職金には、3つの性格があるとされます。

① 賃金の後払い的な性格
② 功労褒賞的な性格
③ 老後の生活保障的な性格

このような性格がありますから、現役時代にもらっていた給料とは税金のかかり方も異なります。「長年のお勤めご苦労さん」という意味合いや、「老後の生活保障」という意味合いが強いものですから、退職金は税金が非常に優遇されているのです。

給与所得と退職所得

退職金にも給料にも所得税がかかります。所得税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に得た所得に課せられますが、所得の種類は10種類に区分され、その性格により計算方法が定められています。これは、所得の発生は極めて多種多様であり、同じ大きさの所得であっても、所得の性質によって担税力に差があるからです。

例えば、毎月恒常的に発生する給料と、基本的に1回限りの退職金ではその性格が異なりますから、税金のかかり方が異なるということです。

退職所得は優遇されてる!

先にみたように、退職金は、長年の勤労に対する報償的なものとして支払われることや、老後の生活保障的な性質をもつことなどから、退職所得控除を設けたり他の所得と分離して課税するなど、税負担が軽くなるように配慮されています

退職所得は、退職金額から退職所得控除額を差し引いた額に1/2を掛けて算出します。退職所得控除額は勤続年数に応じて大きくなるように設計されており、さらに課税所得が小さくなるように「×1/2」をすることになっています(一定の役員等が受け取る退職金については、「×1/2」の適用はありません)。

例えば、勤続年数が30年の方の場合、退職所得控除額は、「800万円+70万円×(30-20年)=800万円+70万円×10年=1,500万円」となりますから、退職金が1,500万円までは税金がかかりません

中小企業であれば、退職金が何千万円ということはあまりないでしょうから、ほとんど税金はかからないといえるかもしれません。

退職金の使い道は?

退職に伴い、まとまったお金を手にすると、その使い道に悩んでしまいます。しかし、退職金は老後の生活保障的な性格もあるわけですから、60歳以降のライフプラン、マネープランを考えたうえで、その使い方を検討したいものです。

まずは、退職時の資産(預貯金や株、投資信託など)と負債(住宅ローン、車のローンなど)の把握、退職後の収入(再雇用時の給料や年金)の把握をしましょう。そして、今までの生活費を参考に老後の生活費を見積もります。

健康保険や所得税、住民税などは会社が天引きしていたため、その計算方法が分からないこともあるでしょうが、今後の社会保険と税金について、せっかくの機会ですからご自身で調べてみましょう。

このように、退職時には資産と負債の状況、今後のお金の流れを把握したうえで、退職金をどうするのか考えていきましょう。

多死社会を迎えて~老いじたくを考える

高齢者人口が増加する中、老いじたくや終活への関心が高まっています。老いじたくは、将来家族を困らせないための準備であると共に、これまでの生涯を振り返り充実したラストステージを演出するものといえます。今回は、老いじたくについて考えてみましょう。

増加する死亡者数

昭和の終わりから、死亡者数は右肩上がり。団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、さらに増加すると見込まれていおり、2040年の推計で年間約168万人が亡くなるとされています。

令和2年版「厚生労働白書」より
老いじたくに関するテーマ

老いじたくに関するテーマは、実に幅広くなっています。健康、介護・医療、相続、遺言、生きがいなど多岐にわたりますが、イザという時に慌てないよう、元気な時にある程度のことは考えておきたいものです

元気なうちに準備を

年齢を重ねると、健康への不安は増大します。いつまでも健康でいられることが一番ですが、いつ何があるか分かりません。介護が必要になった場合にどうするのか、延命治療を希望するのかなど、まずは介護・医療分野での準備が必要です。

家族を介護で疲弊させないためにも介護保険の基礎知識は必要ですし、自らで意思表示ができなくなった時、家族を困らせないよう延命措置や尊厳死についても考えておきたいところです。

贈与や相続などの一般的な知識もあったほうがよいでしょう。相続を争族にしないため生前贈与を有効活用したり、遺言を書くなどの対策が考えられます。その前提として、預貯金や不動産などの財産一覧を作ることが必要となります。住宅ローンなどの借金もまとめておきましょう。

通常、有効な遺言があれば、遺言通りに遺産分割されますが、遺言がない場合には、法律で決められている相続分(貰える財産の割合)によります。死亡した人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人には順位がつけられています。

高齢になり、認知症などで判断能力が衰えた場合には、判断能力の不十分な方を保護し、支援する制度として、成年後見制度が設けられています。

葬儀についての希望や、もしもの時に連絡してほしい人などもまとめておきましょう。葬儀社によっては生前に葬儀の相談をすることもできます。何社か候補を選び、いろいろと相談をするうちに、どんな葬儀にしたいのかが明確になってくるのではないでしょうか。

生きがいのあるラストステージを

厚生労働省「令和2年簡易生命表」によると、男性の平均寿命は81.64年、女性の平均寿命は87.74年となっています。平均寿命とは、0歳の平均余命を意味しますが、定年を迎えてセカンドライフに入る60歳以降の平均余命をみてみると、例えば、年金の受給開始年齢である65歳の平均余命は男性20.25年、女性24.91年となります。各年齢で残りの人生をみてみると、平均寿命よりも長生きすることになります。

厚生労働省「令和2年簡易生命表」より

老いじたくを考える場合、将来家族に迷惑をかけたくないという側面が強くなりがちですが、65歳時点において男性であれば20年、女性であれば24年、75歳時点でもそれぞれ12年、16年も余命があるわけですから、その後の人生をどう充実させて過ごすのかという観点を忘れてはいけないと思います。

老いじたくに関しては、市販されているエンディングノートを活用してみましょう。いろいろな種類のものが販売されていますが、内容は大きく変わりません。一度書いたら終わりというものではありませんから、書けるところから書く、完璧を求めないなどを念頭に、まずは気軽に始められそうなものを一冊購入して、書き進めてみてはいかがでしょうか。

定期的に買い替え、書き続けることによって、自分らしい、納得できる老いじたくができるのではないかと思います。

老老介護と老老相続

高齢化が進んでいます。内閣府「令和3年版高齢社会白書」によると、令和2年10月1日現在、65歳以上人口は3,619万人で高齢化率は28.8%となりました。

高齢化率は今後も伸び続け、令和18 年には33.3%、国民の3人に1人が高齢者になると推計されています。令和 24 年以降は 65 歳以上人口が減少に転じますが、高齢化率はさらに上昇を続け、令和 47 年には 38.4%、国民の約 2.6 人に 1 人が 65 歳以上になると予測されています。

今後、老齢期における介護や相続への関心がさらに高まるでしょう。今回は、老老介護と老老相続についてみてみます。

老老介護の実態

老老介護という言葉を頻繁に目にするようになりました。高齢者が高齢者の介護を行うことで、一般に65歳以上の高齢夫婦や親子、兄弟間などでの介護をいいます。

厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況」から、老老介護といわれる年齢組合せ別の割合をみてみると、65歳以上同士でも、75歳以上同士でも上昇傾向となっています。

もう少し細かくみると、例えば、「70~79歳」の要介護者等では、「70~79歳」の者が介護している割合が56.0%、「80~89歳」の要介護者等では、「80歳以上」の者が介護している割合が25.1%、「60~69歳」の者が介護している割合が21.6%、「90歳以上」の要介護者等では、「60~69歳」の者が介護している割合が58.2%、「70~79歳」の者が介護している割合が18.4%などとなっています。

ひとりですべてを抱えない

年齢に関係なく、介護者の体力的、精神的負担は大きいといえますが、介護者が高齢であれば負担は一段と大きくなります。また、それまで家事全般を担っていた妻が突然倒れ、夫が介護することになれば、慣れない炊事、掃除、洗濯等を行わなければなりません。外出の機会も少なくなり、ストレスも増えるでしょう。

介護者の介護時間を要介護度別にみると、「要介護3」以上では、「ほとんど終日」が最も多くなっており、介護疲れから共倒れのリスクも高まります。介護保険サービスの適切な利用はもちろん、他の親族との協力体制や、介護保険外サービスの利用など、ひとりですべてを抱え込まない工夫が重要です。

老老相続とは

老老介護もいつかは必ず終わりを迎えます。そうなると発生するのが相続です。老老相続とは、亡くなった人(被相続人)と相続する人(相続人)がどちらも高齢者であるような相続をいいます。

高齢である相続人が複雑な相続手続きを行うことは容易ではありません。亡くなった方が高齢であればあるほど、配偶者はもちろん、子どもや兄弟姉妹も高齢である可能性が高いですから、今後、老老相続にまつわる様々な課題が社会的に関心を集めるでしょう。

財務省「説明資料〔資産課税(相続税・贈与税)について〕」をみてみると、「被相続人の高齢化が進んでおり、相続による若年世代への資産移転が進みにくい状況となっている」とあり、老老相続の増加は経済活性化の面からも懸念されていることが分かります。

老老相続の問題点は

同資料によると、亡くなった方が80歳以上である相続が大きく増加しています。

高齢者が亡くなり、相続人が「配偶者と子」であれば、亡くなった方が高齢であればあるほど、配偶者も子も高齢です。子が先に亡くなっている場合もあるでしょう。そうなると孫が相続人になります。また、相続人が「配偶者と兄弟姉妹」となる場合を考えても、亡くなった方が高齢であればあるほど、兄弟姉妹も高齢です。兄弟姉妹が先になくなっていれば、甥や姪が相続人になります。

このように、老老相続では、相続人を確定するだけでも複雑になりがちです。相続人を確定できても、親戚付き合いが希薄であれば、連絡先がわからないかもしれません。連絡先が分かっても、相続人の中に認知症の方がいるケースも考えられますから、そうなると相続手続きを進めるのは困難を極めます。

超高齢社会を迎え、様々な課題が出てきました。中でも、老老介護と老老相続への対応は喫緊の課題だといえます。介護も相続も突然起こります。誰にでも関係することですから、早い段階で両親の介護と相続、そして自分自身の介護と相続についても考え始めたいものです。