10月は有給促進月間!経営者が今できる3つの対応

厚生労働省は今年も10月を「年次有給休暇取得促進期間」と位置づけ、企業に対して年休取得を進めるよう呼びかけています。背景には、働き方改革の一環として年休取得率を引き上げる政府の強い意思があります。

2023年の日本全体の年休取得率は65.3%と、過去最高を記録しました。しかし、政府は2028年までに70%の取得率を目指すと明言しており、依然としてその達成には企業側のさらなる取り組みが不可欠です。

経営者の皆さまにとって、これは決して他人事ではありません。

単なる「休みを与える制度」ではなく、企業経営にも直結する課題として、今こそ真剣に向き合うべき時期です。

この記事では、社労士の立場から、なぜ有給休暇の取得促進が重要なのか、そして今すぐ取り組める3つの対応策をご紹介します。

■ なぜ年休取得が経営課題になるのか?

まず知っておきたいのは、年休の取得率は単なる「福利厚生の指標」ではないという点です。取得が進まない企業は以下のようなリスクを抱えることになります。

  • 働き方改革関連法違反による是正勧告や罰則リスク
  • 従業員のモチベーションや定着率の低下
  • 採用活動でのイメージダウン
  • メンタルヘルス不調による労災申請の増加

特に、法律上では10日以上の年休が付与された従業員には「年5日の取得義務」が課されています。これに対応しない場合は、企業に対して30万円以下の罰金が科される可能性もあるため、実務としても見過ごせません。

■ 経営者が取り組むべき3つの具体策

厚労省も「年休取得率を上げるには企業の環境整備が欠かせない」として、以下のような取り組みを推奨しています。ここでは、すぐに実践できる3つの方法をご紹介します。

① 業務の平準化と見える化

年休が取りにくい背景には、「誰かが休むと仕事が回らない」という現場の声があります。特に中小企業では一人当たりの業務負担が大きく、属人化も起きやすいのが実情です。

そこで重要になるのが、業務の「見える化」です。誰が・何を・いつ・どのくらいやっているのかを可視化し、特定の人にしかできない仕事を減らしていくことで、休みやすい体制が整います。

また、年間スケジュールを見直し、繁忙期と閑散期を明確にすることで、年休取得の「計画性」も高まります。

② 計画的付与制度の導入

労働基準法では、年次有給休暇のうち5日分までは、企業側から「計画的に指定」して取得させることが可能です。これがいわゆる「計画的付与制度」です。

たとえば、夏季や年末年始など、会社として一斉に休業日を設定することで、自然と年休を消化できる仕組みにできます。また、個人単位で「この日は休みにしよう」と事前にスケジューリングすることも可能です。

この制度は、「休めない人」を作らないための制度設計としても非常に有効です。

③ 時間単位年休の導入

「1日休むほどではないが、午後だけ外せたら…」
「子どもの送迎だけのために半休はもったいない」

こうした声に応えるのが「時間単位年休」です。

企業が就業規則で定めれば、年5日を上限として、年休を1時間単位で取得できるようになります。これにより、ちょっとした私用や家族都合にも対応できる、柔軟な働き方が実現します。

とくに人手不足の中小企業では、「フルに休まれると困るけど、1~2時間の外出ならOK」というケースも多く、経営と現場のバランスが取りやすい制度として注目されています。

■ 社員が安心して休める職場文化の醸成も鍵

制度を整えるだけでは、年休は浸透しません。

「誰も休んでないのに、自分だけ取ったら気まずい」
「上司が全然取ってないのに、自分だけ休めない」

そんな空気感があると、制度は形骸化してしまいます。

ここで重要になるのが、経営者自身の姿勢と、管理職の意識改革です。

  • 経営者が自ら「年休を取るように」と発信する
  • 管理職が率先して年休を取得する
  • 社内で年休取得の実績や事例をシェアする

こうした取り組みが、「休みやすさの可視化」につながり、社員一人ひとりが安心して取得できる環境に変わっていきます。

■ 取り組み事例:ある企業の成功パターン

ある中小企業では、年休取得率が40%台にとどまっていた状況から、わずか1年で70%を超える水準にまで改善しました。

その企業が取り組んだのは以下の3点です:

  • 年間休日カレンダーの見直し(計画的付与)
  • 朝礼での社長からの「休んでいい」メッセージ発信
  • 年休取得率を人事評価の指標に加える

これにより、社員の意識も「休むことは悪いことではない」から「休むことが推奨されること」へと変化しました。

■ まとめ:10月は「チャンスの月」

10月というこのタイミングは、「年休取得」を見直す絶好のチャンスです。

必ずしも全社員が100%取得する必要はありません。まずはできることから始めて、少しずつ「休みやすい会社」へと進化していくことが大切です。

有給休暇は、企業にとっても従業員にとっても「安心して働き続けられる環境づくり」の要です。

制度と文化の両面から、持続可能な働き方改革を進めていきましょう。