年次有給休暇の計画的付与制度:確実な有休取得と計画的な業務運営のために

経営者の皆様、「年次有給休暇の計画的付与制度」をご存知でしょうか?

これは、全従業員に義務付けられた年5日の有休取得を確実に達成し、かつ企業の生産性向上にもつながる、労使双方に大きなメリットをもたらす制度です。

1. 計画的付与制度とは?

年次有給休暇(以下、有休)は、本来、従業員が自由に取得時季を指定できるものですが、この制度は、付与日数のうち5日を超える残りの日数について、労使協定を締結することにより、あらかじめ計画的に取得日を定めることができる制度です。

簡単に言えば、「この日に有休を取ってもらう」と会社側(労使協定に基づき)が指定できる枠組みを作るということです。

【対象となる日数】

  • 自由に取得できる日数: 5日
  • 計画的付与の対象となる日数: 5日を除いた残りの日数

例えば、有休が20日ある従業員の場合、5日は本人の自由な取得のために残し、残りの15日を上限として計画的付与の対象とすることができます。

2. 計画的付与制度の導入手順

この制度を導入するには、従業員の意見を聞くことが非常に重要です。

1. 就業規則への規定

制度を導入する旨を就業規則に定める必要があります。

2. 労使協定の締結(労働基準監督署への届出は不要)

会社と、労働組合または従業員の過半数を代表する者との間で、以下の事項を定めた労使協定を締結します。

  • 計画的付与の対象者
  • 計画的付与の対象となる年休日数
  • 具体的な付与日(方法)
  • 有休付与日数が少ない従業員(有休が6日未満など)への対応(特別休暇の付与など)

3. 計画的付与の3つの主な方式

業務の実態に合わせて、主に次の3つの方式から選ぶことができます。

方式概要適している業態・事例
1. 一斉付与方式全従業員に対して、同じ日に有休を一斉に付与する方式。製造業など、操業を完全にストップできる業種。飛び石連休の「橋渡し」として活用。
2. グループ別交代制付与方式班やグループごとに交代で有休を付与する方式。流通・サービス業など、定休日を増やせないが、一部休業が可能な業種。
3. 個人別付与方式各従業員の有休付与計画表を作成し、個人ごとに取得日を定める方式。繁忙期が個人・部門によって異なる業種。夏季・年末年始休暇の一部に充てるなど。

4. 経営者にとってのメリット(企業側)

計画的付与制度は、法令遵守と経営の効率化の両面で大きな効果を発揮します。

①年5日取得義務の確実な達成

企業には全従業員に対し年5日の有休を取得させる義務があります。計画的付与を導入することで、この義務を確実に履行でき、法令違反のリスクを回避できます。

②計画的な業務運営と生産性の向上

あらかじめ休業日やシフトが決まるため、業務の予定が立てやすくなります。閑散期に集中して有休を付与することで、業務の平準化が図れ、結果的に生産性向上につながります。

③有休管理の負担軽減

従業員一人ひとりの有休取得日数を個別に管理し、取得を促す手間が軽減されます。特に「時季指定義務」(会社が取得日を一方的に指定する制度)の煩雑な手続きを避けることができます。

5. 労働者にとってのメリット(従業員側)

この制度は、従業員の心身のリフレッシュにも役立ちます。

1. 気兼ねなく有休を取得できる

日本の職場では、周囲に遠慮して有休を申請しづらい雰囲気がある場合もありますが、会社が指定した日であれば、ためらいを感じることなく確実に休暇を取得できます。

2. 年間の計画が立てやすい

まとまった休暇の予定があらかじめ決まるため、従業員は旅行や帰省などの個人的な年間計画を立てやすくなります。夏季・年末年始などに組み合わせて、大型連休を実現することも可能です。

6. デメリットと留意点

一方で、導入にあたっては以下の点に留意が必要です。

①従業員の自由度の低下

従業員が自由に取得できる有休が5日間に限定されるため、個人的な都合での取得時季の柔軟性は低くなります。労使協定締結時に十分な話し合いが必要です。

②原則、時季変更権の行使不可

一度労使協定で定めた計画的付与日については、従業員の時季変更権(会社に指定された日以外の日に休みたいと申請する権利)が行使できなくなります。

③付与日数の少ない従業員への対応

有休の付与日数が少ない(例:入社間もない、勤続年数が短いなど)従業員に対し、計画的付与日に休ませる場合、有休がない部分は特別休暇の付与や休業手当の支払いなどの対応が別途必要になります。

④導入の手続き

労使協定の締結、就業規則の変更など、導入時には一定の手続きが必要です。

7. まとめ

計画的付与制度は、法令遵守の確実性と計画的な事業運営を実現する、非常に有効な制度です。しかし、導入には労使の十分な話し合いと、貴社の業務形態に合わせた適切な運用方式の選択が不可欠です。

この制度を賢く活用し、従業員が休みやすく、会社がより発展する職場環境づくりを目指しましょう。