医療・介護の希望を整理したところで、いよいよ終活の核心の一つである「お金」の話に入りましょう。
40代、50代の私たちにとって、老後資金は最大の不安要素かもしれません。「一体いくら必要なのか?」「今の貯蓄ペースで本当に大丈夫なのか?」頭の中でモヤモヤしている方も多いのではないでしょうか。
老後資金の準備は、単なる貯蓄ではありません。
それは、「これから先の人生で、何を楽しみ、どんな生活を送りたいか」を具体的に設計する作業です。終活の視点から見ると、老後のお金は「ゴール」ではなく、「豊かなセカンドライフを支える土台」なのです。
この記事では、老後資金のリアルな必要額を計算する方法から、40代50代からでも間に合う具体的なマネープランの逆算術まで、プロの視点で徹底解説します。
1. 老後資金の「神話」を捨てる:月々の生活費をリアルに把握する
まず、よく言われる「老後資金〇〇百万円必要」という報道に惑わされるのはやめましょう。なぜなら、必要な金額は人によって全く違うからです。
老後資金の計算を始める上で、最も重要なステップは、「退職後の月々の生活費」をリアルに把握することです。
① 現役時代の支出を棚卸しする(現状把握)
まずは、直近の家計簿や銀行の取引明細を見て、現在の月々の支出を書き出してください。
- 必ずかかる費用(固定費): 住居費(ローン/家賃)、保険料、通信費(スマホ代)、税金、公共料金など。
- 変動する費用: 食費、交際費、趣味・娯楽費、被服費など。
② 「老後の生活費」をシミュレーションする
現在の支出をベースに、老後の生活費を「現役引退後の生活(理想)」に合わせて調整します。
支出項目 | 現役時代(月) | 老後(月) | 調整理由 |
住居費 | 10万円 | 0〜5万円 | 住宅ローン完済orダウンサイジング |
食費 | 8万円 | 6〜7万円 | 外食が減る、健康志向で食材費が高くなる可能性も |
趣味・娯楽 | 3万円 | 5〜10万円 | 旅行や趣味の時間が増える |
交際費 | 3万円 | 1〜2万円 | 会社関係の飲み会などが減る |
医療・介護費 | 1万円 | 3〜5万円 | 医療費や介護保険サービスの利用増 |
合計 | 25万円 | 約15〜29万円 | 大きく変動する |
多くの場合、退職後は「現役時代より少し減る」と想定されますが、趣味や旅行などの「ゆとり費」、そして「医療・介護費」は増える可能性が高いことを考慮に入れるべきです。
【ポイント】
夫婦二人で「ゆとりのある生活」を送るには、月額約35万円程度が目安と言われることもありますが、あなたの「ゆとり」を具体的な金額に落とし込むことが大切です。
2. 老後資金の不足額を計算する3つのステップ(逆算術)
老後資金の目標額は、以下のシンプルな計算式で求めることができます。
具体的に、以下の3つのステップで逆算してみましょう。
ステップ①:公的年金の見込み額を把握する(将来の収入)
これが最も重要な「老後の柱」です。
- 確認方法: 日本年金機構から毎年届く「ねんきん定期便」を確認してください。50歳以上の方の定期便には、将来受け取れる年金の見込み額が記載されています。
- 夫婦で確認: 自分の年金だけでなく、配偶者の年金見込み額も必ず合算しましょう。
例:夫婦で年金合計が月額30万円と判明。
ステップ②:毎月の「不足額」を算出する(ギャップの把握)
「想定する老後の生活費」から「公的年金の見込み額」を差し引けば、毎月足りないお金(不足額)が分かります。
例:老後の生活費(月額35万円) – 公的年金(月額30万円) = 月額5万円の不足
ステップ③:総不足額を計算する(目標金額の確定)
「いつから、何歳まで」老後を生きるかを設定し、総不足額を計算します。
- 年数設定: 65歳から95歳まで生きると想定すると、30年間です。(男女とも平均寿命は延びています。少し長めに設定しましょう)
例:月5万円 ×12ヶ月 × 30年 = 1,800万円
さらに、この不足額に加えて、以下の「一時的な大きな支出」を合算します。
- 住居費用: 住宅ローンの残り、リフォーム費用、住み替え費用など。
- 介護費用: 介護施設の一時金、自宅介護の費用など(500万円など、ある程度の額を見積もっておく)。
- 葬儀・お墓費用: (300万円など、終活費用の見積もり)。
例のケースでは、生活費の不足額1,800万円に、一時的な費用800万円(介護500万+葬儀300万)を足すと、総額2,600万円が老後資金の目標額となります。
3. 40代50代から間に合わせる!具体的なマネープラン
目標額が定まったら、現在の貯蓄額と照らし合わせ、不足分を埋めるための具体的なアクションを起こしましょう。40代50代は、まだ現役で収入がある「挽回できる最後のチャンス」です。
対策①:家計の「固定費」を徹底的に見直す
最も効果が出るのが、一度見直せば継続的に効果を発揮する固定費の削減です。
- 通信費: 格安SIMへの乗り換えを検討するだけで、夫婦で年間10万円以上削減できる可能性があります。
- 保険料: 生命保険や医療保険は、子どもが独立したり、住宅ローンを完済したりするタイミングで見直し、不要な特約を外すことで大幅に削減できます。終活と合わせて、保障内容が本当に今の自分に合っているか確認しましょう。
- 住宅ローン: 残債が1,000万円以上残っている場合、金利の低い金融機関への借り換えを検討する。
対策②:「働き方」と「退職時期」を見直す
不足分を補うために、年金をもらうまでの期間の働き方を柔軟に考えましょう。
- 退職時期の繰り下げ: 60歳で退職せず、65歳まで働くことで、5年分の生活費の不足(例:月35万円
60ヶ月 = 2,100万円)を賄えるだけでなく、厚生年金を増額させることができます。
- 定年後の再雇用: 役職定年後も働き続けることで、生活にハリも生まれます。その収入を「ゆとり費」に充てるプランも有効です。
対策③:資産を「守り」から「増やす」へシフトする
預貯金だけでは、インフレで実質的な価値が目減りしてしまう時代です。40代50代なら、まだ10年~20年の運用期間が確保できます。
- 確定拠出年金(iDeCo): 毎月の掛金が全額所得控除の対象となる、最強の節税効果を持つ制度です。まだ始めていない場合は検討してみましょう。
- NISA(新NISA): 投資で得た利益が非課税になる制度です。少額からでも、国際分散投資などを活用し、リスクを抑えながら資産形成を始めましょう。
【注意】 資産運用は自己責任です。ハイリスクな投資ではなく、長期・積立・分散を基本とした「時間を味方につける」堅実な方法を選びましょう。
まとめ:お金の整理は「人生の選択肢」を増やすこと
老後資金の準備は、「いくら貯められるか」だけでなく、「どう生きたいか」というあなたの希望に直結しています。
お金の準備をしっかり行うことで、あなたは「どこに住むか」「どんな医療を受けるか」「どんな趣味を持つか」という人生の選択肢を、他人に委ねることなく、最後まで自分で決めることができます。
40代、50代は、まだ間に合います。
不安を解消する第一歩として、まずは「ねんきん定期便」を確認し、老後資金のシミュレーションを始めることから始めましょう。