年末が近づくと、「これ以上シフトに入ると扶養から外れちゃうから…」とお子さんがアルバイトの調整を始める。そんな光景は、多くのご家庭で経験があるのではないでしょうか。収入を増やしたい気持ちと、扶養から外れることによる家計への影響を天秤にかける、いわゆる「年収の壁」問題です。
この長年多くの人々を悩ませてきた課題に、ついに大きな変化が訪れました。2025年10月から、特定の年齢層を対象に、この「壁」が引き上げられています。
知らないと損!扶養の壁が「130万円」から「150万円」へ
今回の制度変更の重要なポイントは、健康保険の扶養に関するルールです。扶養認定日が令和7年(2025年)10月1日以降の場合、特定の対象者については、年間収入の要件が「130万円未満」から「150万円未満」へと引き上げられています。
これまで「130万円」という上限を意識して就業調整をしていた方々、特に大学生などが収入を過度に気にすることなく働けるようになります。これにより、学業と両立しながら留学資金を貯めたり、専門分野に関連する高時給のインターンシップに挑戦したりするなど、学生生活の可能性を大きく広げることができます。
ただし、注意点もあります。今回の変更はあくまで「年間収入要件」のみであり、「収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満であること」といった他の要件は引き続き適用されますので、その点は忘れないようにしましょう。
実は学生限定ではない?対象は「19歳以上23歳未満」の親族
多くの方が「学生アルバイトのための制度」と誤解しがちですが、実際には学生であるかどうかは問われません。正しくは、「19歳以上23歳未満」の親族(被保険者の配偶者を除く)が対象となります。
つまり、大学に進学せず社会人として働き始めた若い方や、一度就職した後に学び直しをしている方なども、年齢要件さえ満たせば対象となります。重要なのは学籍の有無ではなく、あくまで年齢です。
年齢は、扶養認定を受ける年の12月31日時点で判断されます。例えば、2025年中に19歳になる方(2025年12月31日時点で19歳)であれば、その年の扶養認定から新しい150万円の基準が適用されます。
なぜ今変わるのか?背景にある日本の深刻な人手不足
今回の制度変更は、単なる金額の見直しではありません。その裏には、日本の深刻な人手不足問題への対策という大きな目的があります。
飲食業や小売業などでは、大学生などのアルバイトが貴重な労働力です。しかし、従来の「年収の壁」が働く意欲を抑制する一因となり、人手不足をさらに加速させているという指摘がありました。この状況を改善するため、まずは令和7年度税制改正で税法上の扶養ルールが見直されました。そして、その趣旨との整合性を図る観点から、今回、健康保険のルールも変更されることになったのです。
この変更は、若い世代がもっと意欲的に働ける環境を整えることで、社会全体の課題解決を目指す一歩なのです。
セットで理解しよう!「大学生世代の103万円の壁」は、親の控除のうえでは「150万」円までOKに
今回の見直しを正しく理解するには、健康保険だけでなく、税金の話も欠かせません。前述の通り、今回の健康保険のルール変更は、先行する税制改正に連動したものです。
令和7年度税制改正により、親が受けられる「特定扶養控除」に加えて、新たに「特定親族特別控除」が創設されました。この仕組みにより、お子さんの年収が150万円までであれば、親は従来どおり63万円分の所得控除を受けられます。
さらに、150万円を超えて188万円までの範囲でも、「特定親族特別控除」により控除額が段階的に残ります。これにより、子の収入の増加による親の手取りの急激な減少が緩和される設計になっています。
健康保険(社会保険)と税金の両面で「150万円」という新しい基準が設定されたことで、家計の計画がより立てやすくなるでしょう。
新しい働き方を考えるきっかけに
今回の重要なポイントをまとめます。
- 適用開始:令和7年(2025年)10月1日以降の扶養認定から
- 対象者:19歳以上23歳未満の親族(配偶者を除く)
- 変更点:健康保険の扶養に入れる年収上限が「130万円未満」から「150万円未満」に引き上げ
- 連動する変更:税制上の扶養控除要件も緩和され、「103万円の壁」が実質的に「150万円の壁」に
この制度変更は、これまで収入の「壁」を意識して働き方をセーブしていたご家庭にとって、間違いなく朗報です。ただし、扶養者の収入の半分未満という要件など、他のルールは引き続き適用される点には注意が必要です。この機会に、ご家庭の状況に合わせて働き方や将来の計画について話し合ってみましょう。
