モノの整理、デジタル整理と、順調に終活を進めてきましたね。次に私たちが向き合うべき、そして最も重要なテーマの一つが、医療と介護に関する「意思」の整理です。
40代、50代の私たちはまだ元気ですが、「もしも」の時に自分の意思を伝えられなくなってしまったら?
その時、あなたの代わりに決断を迫られるのは、愛する家族です。
延命治療の判断、介護施設の選択、看取りの場所—これらは、家族にとって非常に重く、精神的な負担が大きい決断です。
今回の記事では、家族に「後悔」という荷物を背負わせないために、私たちが元気なうちにできる「医療・介護の希望を伝える準備」について、具体的な方法をお伝えします。
1. なぜ「希望を伝える準備」が必要なのか
人生の最終段階における医療や介護のあり方を、自分で決めておく活動を「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」、通称「人生会議」と呼びます。
この準備が必要な理由は、主に以下の2点です。
① 家族の精神的な負担を軽減する
あなたの意思が明確であれば、家族は「これでよかったのだろうか」と悩み苦しむ必要がなくなります。あなたの希望に沿った選択をすることが、家族にとっての「最良の決断」になるのです。これは、あなたが家族に贈れる最高の安心です。
② あなたらしい最期を実現するため
医療技術が進歩した現代では、延命治療の選択肢も増えています。しかし、あなたが望まない形で命が長らえたり、慣れない場所で過ごすことになったりする可能性もあります。元気なうちに自分の価値観を伝えることで、「自分らしく、尊厳をもって最期を迎える」という希望が叶いやすくなります。
2. まずは「何を望むか」を考える4つの質問
具体的な書類作成の前に、まずは自分自身に深く問いかけてみましょう。エンディングノートの「医療・介護」の項目を参考にしてください。
- どんな状態になっても「延命治療」を希望しますか?
- 例:人工呼吸器、胃ろうなどの処置を望むか、望まないか。
- ポイント: 「最期は苦しみたくない」など、その判断の理由も書いておくと、家族はあなたの考えを理解しやすくなります。
- 「最期の場所」はどこを望みますか?
- 例:自宅(在宅医療)、病院、ホスピス(緩和ケア病棟)、介護施設。
- もし意思表示ができなくなった場合、誰に判断を任せたいですか?
- 例:配偶者、子ども、兄弟など、信頼のおける代理人を指定します。
- 病気や体力が衰えた後、どんな生活を送りたいですか?
- 例:できる限り自立した生活を続けたい、趣味の時間を大切にしたい、など。
3. 希望を伝えるための具体的な2つのツール
あなたの希望を「ただのメモ」で終わらせず、医療や介護の現場で確実に伝わるようにするためには、以下のツールを活用しましょう。
① エンディングノートへの詳細な記載
エンディングノートは、あなたの意思を包括的に伝える最も手軽なツールです。
- 書き方のコツ:
- 具体的な病名や状況を想定して書く: 「回復の見込みがない状態になったら」など、できるだけ具体的に状況を区切って希望を書きましょう。
- 「変更可能であること」を明記する: 気持ちは変わる可能性があるため、「この希望は、状況や気持ちの変化に応じて見直す可能性がある」と書いておきましょう。
② 公的な制度を活用する:任意後見制度と尊厳死宣言
エンディングノートには法的な効力はありませんが、公的な制度と組み合わせることで、あなたの意思をより強固に守ることができます。
- 任意後見制度:
- 自分が元気なうちに、将来、認知症などで判断能力が衰えた場合に、代わりに財産管理や介護・生活に関する契約手続きをしてくれる人(任意後見人)を、公正証書で決めておく制度です。あなたの意思を代弁し、介護施設への入所契約などもスムーズに行えます。
- 尊厳死宣言公正証書(リビング・ウィル):
- 延命治療を拒否し、自然な死を迎えたいという意思を、公証役場で公正証書として作成するものです。法的効力はありませんが、医師や家族に対してあなたの確固たる意思を伝えられるため、非常に強力な意思表示となります。
まとめ:準備こそが、残された家族への「愛情」
医療・介護の希望を伝える準備は、あなたの人生を自らデザインする最終段階です。
「もしも」の時のために準備をすることは、決して「縁起が悪い」ことではありません。それはむしろ、残される家族の心に「安心」という名の大きな愛情を注ぎ込む行為です。
まずは、エンディングノートを開き、「私はどう生きたいか、どう最期を迎えたいか」を、あなたの言葉で綴ってみましょう。