就業規則と労働基準法の関係は?

今回は、貴社の安定的な経営と労務管理の基盤となる「就業規則と労働基準法の関係」について、経営者として押さえていただきたい重要なポイントをまとめました。

就業規則は単なる義務で作成する書類ではなく、会社を守り、従業員を育てるための経営ツールです。ぜひ、この機会にその本質をご理解いただければ幸いです。

1. 労働基準法が定める「最低基準」

まず、就業規則を理解する上で大前提となるのが労働基準法(労基法)です。

労働基準法とは

労働基準法は、労働条件に関する最低基準を定めた法律です。この法律は、使用者(会社)と労働者との力関係に差があるため、労働者が不当な扱いを受けないよう、国が介入して「これだけは守らなければならない」という最低ラインを規定しています。

  • 最低ラインの例:
    • 休憩を除き1日8時間、週40時間という「法定労働時間」
    • 週に少なくとも1日の「法定休日」
    • 最低限付与が義務付けられている「年次有給休暇」
    • 最低賃金以上の賃金の支払い

強行法規としての労基法

労基法は、労働契約や就業規則よりも優先されます。これは、もし貴社の就業規則や従業員との個別の労働契約で労基法を下回る労働条件が定められていたとしても、その下回る部分は無効となり、労基法で定められた基準が適用されるということを意味します(労働基準法第92条第1項)。

【経営者として重要な認識】

労基法は「最低限のルール」であり、これを守るのは義務です。就業規則を作成・運用する際は、全ての規定が労基法の基準をクリアしているかを確認する必要があります。

2. 就業規則の役割と法的性質

就業規則は、貴社の事業場で働く全ての従業員に適用される、社内の統一的なルールブックです。

会社独自のルールを具体化・明文化

就業規則は、労基法という国の定める抽象的な最低基準に対し、貴社の実態に合わせた具体的なルールを定めます。例えば、労基法は有給休暇の最低付与日数しか定めていませんが、就業規則では「申請期限」「取得単位(半日・時間単位の導入)」「時季変更権の行使条件」など、具体的な運用方法を規定します。

労働条件と服務規律の明確化

就業規則に定める主な事項は以下の通りです。

  1. 絶対的必要記載事項: 必ず記載しなければならない事項(労働時間、休憩、休日、賃金、退職など)
  2. 相対的必要記載事項: 制度を設ける場合には必ず記載しなければならない事項(退職手当、賞与、安全衛生、災害補償など)
  3. 任意記載事項: 会社が自由に定める事項(社内の儀式や理念など)

特に、服務規律や懲戒処分に関する規定は、職場の秩序維持のために不可欠です。これらを明文化することで、「何が許されて、何が許されないのか」が明確になり、労使間の無用なトラブルを未然に防ぐ重要な役割を果たします。

法的拘束力

就業規則は、作成後に労働者へ周知(全員がいつでも見られる状態にする)することで、従業員との労働契約の内容となり、法的拘束力を持ちます(労働契約法第7条)。つまり、就業規則は会社と従業員の双方を拘束する重要な契約文書の一部となるのです。

3. 「優位性」の原則と企業独自のメリット

就業規則が労基法に優越する、という関係はありませんが、労基法の基準を上回る規定は有効となります。

労基法を超える基準は有効

労基法はあくまで「最低基準」であるため、就業規則で労基法よりも有利な条件を定めることは何ら問題ありません。例えば、「法定の年次有給休暇のほかに、特別休暇を年間5日付与する」といった規定は、従業員にとって有利なため有効です。

就業規則は、貴社の従業員に対する理念や姿勢を反映するものであり、労基法を上回る手厚い規定を設けることは、優秀な人材の確保や定着率向上につながるという経営上のメリットがあります。

トラブル解決における重要性

万が一、従業員との間で労働条件や懲戒処分に関して紛争が生じた際、最初に判断の基準となるのは、貴社の就業規則です。

  • 就業規則がない、または実態に合っていない: 会社独自のルールがないため、全て労基法や判例に頼ることになり、会社の主張が認められにくい。
  • 適切で具体的な就業規則がある: 会社が定めたルールに基づいて対応できるため、公正な判断が下しやすくなり、会社の法的リスクを最小限に抑えることができます。

4. 経営者が留意すべき義務と運用上のポイント

義務の遵守

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と、労働基準監督署への届出義務が労働基準法第89条で定められています。また、作成・変更時には労働者の意見を聞く義務があります(労働基準法第90条)。

運用のポイント

就業規則は、作成して終わりではありません。

  1. 「周知」の徹底: 従業員全員がいつでも確認できる状態にすることが、規則の効力発生の絶対条件です(労働基準法第106条)。
  2. 実態との合致: 会社の事業や実態に合わない規則は、いざという時に機能しません。法改正や経営状況の変化に応じて、定期的に見直し・改定を行う必要があります。
  3. 不利益変更の難しさ: 既に周知されている就業規則を、従業員にとって不利益になるように変更する場合(例:賃金の引き下げ、退職金制度の廃止など)は、原則として従業員個別の同意が必要です。同意がない場合は、その変更が「合理的なものであること」が厳しく問われます(労働契約法第10条)。

終わりに

就業規則は、労基法の定める「最低基準」を満たした上で、貴社の経営方針、職場の実態、そして従業員への想いを具体化する企業独自の最高規範です。

適切に作成・運用することで、法令遵守(コンプライアンス)を果たしつつ、労使間の信頼関係を築き、安定した企業経営を実現できます。ご不明な点や見直しのご要望がございましたら、社会保険労務士に相談してみましょう。