今回は、「おひとりさま」として人生を歩む方々の終活に焦点を当てます。
「家族がいないから、誰にも迷惑をかけたくない」「もしもの時、誰が助けてくれるんだろう?」
おひとりさまでいることの自由と引き換えに、私たちは「もしもの時のサポート体制」という、特有の不安を抱えています。
この不安を解消するための具体的な法的・実務的な手続きと、地域や人との繋がりを保つための「孤立を防ぐ備え」について、詳しく解説します。
一人だからこそ、自分の人生の終着点まで、すべてを自分でデザインし、誰にも頼らず、安心して生き抜くための計画を立てましょう。
1. おひとりさまが直面する「最大の壁」とは?
おひとりさまが直面する最大の壁は、「法的・契約上のサポートがいないこと」です。夫婦や家族がいる場合、配偶者や子どもが手続きを代行できますが、おひとりさまの場合、病気や認知症で判断能力を失うと、生活に関わる様々な契約や手続きが「凍結」してしまいます。
凍結する主な手続き
- 入院・手術の同意: 家族の同意がないと、医師が積極的な医療行為に踏み切れないケースがあります。
- 財産の引き出し・管理: 認知症になると、銀行口座が凍結され、生活費を引き出せなくなります。
- 介護施設への入居契約: 施設への入居契約や保証人代行の手続きができなくなります。
- 死後の手続き: 葬儀の手配や、賃貸住宅の解約、電気・ガスなどのライフラインの停止が誰もできません。
これらの問題を未然に防ぐため、公的な制度を活用して「生前に代理人を指名しておく」ことが、おひとりさま終活の絶対条件となります。
2. おひとりさま終活の「最強の盾」となる3つの契約
おひとりさまの生活と死後を完全にカバーするためには、弁護士や司法書士などの専門家と連携し、以下の3つの法的な契約を結んでおくことが必須です。
① 任意後見契約:生前の生活と財産を守る盾
- 目的: 自分が認知症などで判断能力を失った後、選んだ人(任意後見人)に、代わりに財産管理や介護・生活に関する契約手続きをしてもらうための契約。
- 備え: あらかじめ公証役場で公正証書を作成します。元気なうちに「誰に」「何を」任せるかを自分で決められるため、自分の意思を最も尊重できる制度です。介護施設への入居契約や費用の支払いなどを任せられます。
② 医療代理契約(または見守り契約):入院時の意思決定を委託
- 目的: 延命治療の希望や、手術の同意など、医療に関する意思決定を代行してもらうための契約。
- 備え: 任意後見人や、専門家を相手に、あらかじめ代理権を与えておきます。エンディングノートに記載したリビング・ウィル(延命治療の希望)を、代理人が医師に対して確実に伝達する役割を担います。
③ 死後事務委任契約:死後の全ての手続きを託す
- 目的: 自分が亡くなった後の煩雑な手続きを、あらかじめ決めておいた人(受任者)に委任するための契約。
- 備え: これも公正証書で作成します。具体的には、葬儀・納骨の手配、医療費の精算、公共料金の解約、賃貸住宅の明け渡し、遺品の整理など、残された家族がいないと誰もできない手続きを全てカバーできます。
【重要】
この3つの契約の受任者(後見人、代理人、事務委任者)は、信頼できる友人や親戚にお願いするのが理想ですが、難しい場合は、司法書士法人や専門のNPO法人に依頼することが可能です。費用はかかりますが、確実にあなたの意思が実行されます。
3. 「孤立」を防ぐ!おひとりさまのコミュニティづくり
法的な備えは「もしも」の時の保険ですが、日々の安心を支えるのは、やはり人との繋がりです。おひとりさま終活では、「社会的孤立」を防ぐための積極的な行動が求められます。
① 「見守りサービス」と「行政サービス」の活用
- 民間の見守りサービス: 安否確認(電話、訪問)や緊急時の駆けつけサービスを利用し、異変を早期に発見してもらう仕組みを整えます。
- 地域の行政サービス: 自治体によっては、高齢者向けの緊急通報システムや、地域包括支援センターによる見守り活動があります。積極的に相談し、地域のネットワークに自分の情報を登録してもらいましょう。
② 趣味や地域活動で「ゆるい繋がり」を作る
- 終活はコミュニティ作りのチャンス: 終活セミナーや生涯学習、ボランティア活動などに参加し、共通の趣味を持つ「ゆるい繋がり」を作ることが、新しい家族のような存在になる可能性があります。
- 近隣への情報共有: 近所の方や大家さん、あるいはマンションの管理人など、「何かあったときに連絡できる人」に、あなたの緊急連絡先と、前述の任意後見人や死後事務受任者の情報を伝えておきましょう。
4. 財産を託す「遺言書」と感謝の気持ち
おひとりさまの場合、遺言書は「争族対策」よりも「財産を託す人(団体)」を決めるために絶対不可欠です。
- 遺言書の作成: 財産を寄付したい団体や、生前お世話になった友人、親戚など、あなたの意思で財産を受け継ぐ人を明確に指定します。遺言書がない場合、財産は国庫に帰属してしまう可能性が高いです。
- 付言事項で感謝を伝える: 遺言書には、財産配分だけでなく、「これまで生きてこられたのは皆さんのおかげです」という感謝のメッセージを残しましょう。これが、あなたの「生きた証」として、財産を受け取った人や手続きを行った人に伝わります。
まとめ:自分で人生を閉じられる安心感
おひとりさまの終活は、「誰にも迷惑をかけたくない」という強い意志を、公的な契約という形で実行に移す作業です。
手間はかかりますが、任意後見契約や死後事務委任契約を結んでおくことで、あなたは「もしもの時も、死後も、全てが自分の望む通りに運ぶ」という、絶対的な安心感を得ることができます。
さあ、今日から「最高のプロデューサー」として、あなたの人生のエンディングプランを完成させましょう。