社労士が解説!賃金支払いの5原則を企業が守るべき理由

はじめに

企業と従業員が信頼関係を築く上で、最も基本となるのが「賃金の支払い」です。従業員にとって賃金は生活の基盤。企業にとっても法律を遵守した適正な賃金管理は、コンプライアンスの要ともいえます。

労働基準法では、「賃金支払いの5原則」という基本ルールが定められていますが、これを正確に理解していない企業も少なくありません。

この記事では、社会保険労務士が「賃金支払いの5原則」について、その意味と企業が守るべき理由を実務目線でわかりやすく解説します。

賃金支払いの5原則とは?

労働基準法第24条により、賃金の支払いについて以下の5つの原則が定められています。

  1. 通貨払いの原則
  2. 直接払いの原則
  3. 全額払いの原則
  4. 毎月1回以上払いの原則
  5. 一定期日払いの原則

これらの原則は、すべて「労働者保護」を目的としており、企業側の都合で勝手に変更したり、省略したりすることはできません。

それぞれの原則について、詳しくみていきましょう。

1. 通貨払いの原則

賃金は、原則として「現金(通貨)」で支払わなければならないとされています。これは、現金であれば確実に受け取ることができるという前提から定められたルールです。

【例外】
現在では、労働者の同意を得たうえで「銀行振込」による支払いも認められています。また、2023年からは条件付きで「デジタルマネー払い」も制度化されています。

注意すべきは、「企業側の一方的な判断では通貨以外の支払い方法を選べない」という点です。銀行振込であっても、必ず労働者の同意が必要です。

2. 直接払いの原則

賃金は、原則として労働者本人に直接支払わなければなりません。よって、家族や友人など第三者への支払いは原則として認められていません。

【例外】

  • 銀行振込も「労働者本人の口座」であれば直接払いとみなされる

3. 全額払いの原則

賃金は、その全額を支払う必要があります。ただし、法律で認められている控除(天引き)があります。

【例外として控除が認められるもの】

  • 所得税や社会保険料などの法定控除
  • 労使協定を締結したうえでの控除(例:社宅費、食費など)
  • 会社と従業員間で合意し、かつ法令に抵触しない範囲での控除

違法な天引き(制服代の強制徴収など)は、労基署の是正対象となり得ます。控除内容は明確に労使で合意し、書面で残すことが重要です。

4. 毎月1回以上払いの原則

賃金は、少なくとも「毎月1回以上」支払わなければなりません。これにより、労働者の生活を安定させることが目的とされています。

【例外】

  • 賞与や退職金などの臨時的な賃金はこの原則の適用外

たとえば、毎月の給与を「2か月に1回」まとめて支払うといった方法は違法です。給与体系が歩合制や出来高制であっても、最低でも月1回の支払いが必要です。

5. 一定期日払いの原則

支払う日は「一定の期日」を定める必要があります。たとえば、「毎月25日払い」「月末払い」などです。

【NG例】

  • 支払日が業績次第で変動する
  • 支払日を「随時」としている

曖昧な支払日は、従業員の不信感を招くだけでなく、法令違反として労基署から是正指導を受ける可能性があります。

なぜ企業は5原則を守る必要があるのか?

企業がこの5原則を遵守しなければ、以下のようなリスクが発生します。

1. 労働基準監督署からの是正勧告・指導

労基署の調査で違反が見つかれば、是正勧告や企業名の公表などの措置を受けることがあります。

2. 従業員との信頼関係の崩壊

賃金支払いの遅延や不透明な控除は、従業員の不満を招き、離職率の上昇やSNS等での情報拡散リスクもあります。

3. 訴訟リスクや未払い賃金の請求

労働者から未払い賃金や不当控除分の返還を求められ、裁判に発展するケースもあります。

社労士がすすめる実務対応

社労士として、以下の実務対応をおすすめします。

  • 給与規程や就業規則の見直し(法令に合致しているか)
  • 賃金控除に関する労使協定の締結・保管
  • 支払期日の明確化と社内周知
  • 勤怠・給与計算システムの見直し
  • 賃金トラブル発生時の初期対応マニュアルの整備

まとめ

賃金支払いの5原則は、労働者の生活を守るための最低限のルールです。これを正しく理解し、遵守することが、企業の信用を守り、健全な経営を支える基盤となります。

「昔からこのやり方でやっているから問題ない」と思っていても、知らず知らずのうちに違反しているケースは少なくありません。今一度、自社の賃金制度や運用を見直すことが重要です。